歯のコラム

【99%の人が知らない「親知らず」の話】『親知らずを抜く前に知ってほしいこと②』


親知らずを抜く前に知ってほしいこと
今回は親知らずの移植について話をします

こんにちは。

難波駅と心斎橋駅の中間の難波よりにある、道頓堀キムラ歯科クリニックの院長の木村沢郎です。

最近は庭の家庭菜園で夏野菜がたくさん採れるようになってきました。今年から白ナスを栽培しているのですが、ナスのクセが少なくてうちの子供も食べやすいみたいです。今年はピーマンを2品種育てているのですが、例年育てている「京みどり」に加えて苦味が少ない「ピー太郎」を育てています。うちの子供にも好評なので、ピーマンが苦手な子供さんにオススメです♪

今回は、前回は口腔外科医の親知らずの診断についてお話をしました。今回は引き続いて「親知らず」のお話の中で親知らずを生かす方法についてお話をしたいと思います。


99%の人が知らない「親知らず」の話

口腔外科医として親知らずを抜歯することや、抜歯した後の人を診察することが多くあります。

その時に◯◯◯◯についての話をすると、

「初めて聞きました」

「そんなことが出来るんですね」

「親知らずを抜く前に知りたかったです」

とおっしゃる方に多く出会います。

「親知らずを活かす治療」について、歯医者さんで話をされないことがほとんどのようです。

「親知らずを活かす治療」とは、

•歯牙移植のドナー歯とする

•上の奥歯の位置に矯正治療で移動する

この2つが主な治療になります。

歯牙移植って何ですか?

「歯牙移植」について、聞かれたことがない方が多いかも知れません。歯医者さんの学校教育でもしっかりと教えることはないので、歯医者さんも知らない人が多くいらっしゃいます。

ですが、「自家歯牙移植」は確立された治療方法です。日本の月星光博先生が第一人者として世界中で有名であり、月星先生が書かれた「自家歯牙移植」の本は翻訳され教科書として多くの世界中の歯科医師に読まれてきました。


昔から「歯牙移植」が行われていた!?

歯牙移植の歴史は非常に古く、古代エジプトから行われていた治療方法です。ただし、この時代から長期間行われていた治療は「他家歯牙移植」です。

歯牙移植には、自分の歯を移植する「自家歯牙移植」と、他人の歯を移植する「他家歯牙移植」があります。

下の絵画は、イギリスの風刺画家ローランドソン( Thomas Rowlandson,1757-1827)の作品。ロンドンで1790年に作られた版画で、18世紀で行われていた「他家歯牙移植」の様子を描いています。

当時は、虫歯は金持ちがかかる病気でした。なぜなら、砂糖を口にすることができるのはお金持ちだけだったため、虫歯はいわば「ぜいたく病」でありました。

虫歯で歯を失った貴族や王族は、貧しい人からわずかなお金で健康な歯をもらい、歯の移植を受けていました。右側では貴婦人(受給者:レシピエント)がコブシを握って抜歯の痛みを堪えているところです。その抜歯後に移植をするために、真ん中の煙突掃除人(提供者:ドナー)が健康な歯を抜かれているところです。

ちなみに後ろの鏡を持っている人は入れてもらった歯を鏡で確認しています。左の2人は移植が終わって部屋から出るところです。

このように苦労して行われた「他家歯牙移植」ですが、臓器移植の時に行う免疫抑制の方法もない時代であったため、感染症、免疫反応、歯根吸収が多く、成功率は低かったようです。

「自家歯牙移植」が確立するまで

1950年代から自分自身の歯を移植する「自家歯牙移植」の報告が見られるようになり、1970年代から1990年代にかけて10代の若い人の歯根が完成する前の根未完成歯の「自家歯牙移植」の論文が多く発表されました。その成功率は80%~100%と高いものでしたが、20代以降の根完成歯の「自家歯牙移植」の成功率は25%~100%とばらつきが多いものでした。歯の根が完成する前の移植では、歯の神経である歯髄の再生と歯根の成長が期待できるため根の治療を行わずに定着することが多くあるため、成功率が高いようです。

歯根が完成した歯の場合は、歯を抜いた後に歯髄が死んでしまうため、歯の神経が壊死することで炎症性の歯根九州の問題が大きくありました。その後、移植後の根管治療の必要性と歯根膜の保存を考慮した術式や術後の処置のコンセンサスが得られるにしたがい、

歯根完成歯の「自家歯牙移植」に置いても80%~90%の高い成功率

の報告がみられるようになりました。

外傷歯学の権威であるAndreasen,J. O. と月星光博先生が「自家歯牙移植」の方法を確立したと言っても過言ではないと思います。

私も自家歯牙移植の本家である月星光博先生のセミナーを愛知県で受講してきました。以前から自家歯牙移植を行なっていましたが、月星先生のお話を聞いて最新の歯牙移植について学ぶことが出来きました。

成功率を高めるためのポイントや診断について、多くのことを学ばせていただきました。

当院で治療で取り入れている、3Dプリンターを使った移植ドナー歯の作製や実際の歯牙移植の方法については、別のブログでお話をしたいと思います。

(2020年月星光博先生のCEセミナーアドバンスコース受講時)


「どんな歯が親知らずの歯牙移植の適応になるのですか?」

親知らずの自家歯牙移植は、奥歯を残せない時に適応になります。詳しく言うと、上の6番目、7番目の奥歯と下の6番目と7番目の奥歯が適応になります。

親知らずの大きさに近い歯が歯牙移植の適応になります。

親知らずの歯牙移植のポイントは2つ

  • 親知らずが移植する場所に入るかどうか
  • スムーズに抜歯ができる親知らずかどうか

⒈親知らずが移植する場所に入るかどうか

親知らずは一般的に上下左右に1本ずつ、計4本あります。すべての親知らずが歯牙移植に使えるとは限りません。親知らずの根の大きさや数は様々で、根の数が多く根が広がっている場合は移植に不適切な場合があります。親知らずに3つ以上の根がある確率は下の親知らずでは認められませんが、上の親知らずでは61.0%認めます。(文献1:上條雍彦 : 日本人永久歯解剖学)

移植のドナー歯の適応になるのは、基本的には1根か広がっていない2根になります。CTでドナー歯と移植される大きさを比較することで、親知らずを歯牙移植として使える可能性があるかどうかを診断できます。

⒉スムーズに抜歯ができる親知らずかどうか

親知らずをスムーズに抜歯ができるかどうかがポイントになります。抜歯ができる=歯牙移植できる、とは残念ながら言い切れません。

一般的に上の親知らずの抜歯は非常に簡単な場合が多くあります。それは下顎の骨と比べると上顎の骨が柔らかいため、歯を分割することなく抜歯が可能だからです。早い場合では、1分もかからずに抜歯をすることが可能です。

しかし、下の親知らずの抜歯は難しい場合も多くあります。横に向いている下の親知らずでは歯の頭(歯冠部)を分割して抜歯を行います。スムーズに抜ける場合は移植のドナー歯として使うことは可能ですが、根を割らないと抜歯ができないような親知らずは移植の適応にはなりません。

移植する時のポイントとして、

移植される親知らずが健康であること、

抜歯の際に親知らずの根の表面が大きくダメージを負わないことが大切です。

そのため、抜歯の技術が重要になります。

歯茎の奥に埋まっている深い親知らずを抜歯できる技術に加えて、出来る限り歯根にダメージを与えない丁寧な抜歯を行う技術が必須になります。

難しい親知らずをスムーズに抜歯ができる歯科医師だと、移植として使える親知らずの幅が大きく広がります。

移植した歯は根の治療が必要!?

親知らずの根が完成する前の一部の時期を除き、移植した親知らずは根の治療(根管治療)が必要になります。先ほどお話ししたように親知らずの根の数や形は様々あり、根管治療が他の奥歯よりも難しい場合があります。

親知らずの移植の失敗の原因の一つとして、移植後の歯の根管治療の失敗によるものがあります。日本の根管治療の成功率は世界と比較すると非常に低いため(文献2:須田英明:わが国における歯内療法の現状と課題)、世界標準の根管治療を行うことで根管治療の成功率を高くすることが非常に重要になります。


今回は、親知らずを抜歯をする前に知ってほしい「親知らずの移植」の話をしました。

親知らずの移植のポイントは、難しい親知らずを抜歯できることと世界標準の根管治療ができること、歯牙移植詳細な知識を持っている歯医者さんを選ぶことがポイントになります。

当院での歯牙移植の成功率を高める取り組みを行っています。術前にCTから3Dレプリカを作製し移植を短時間に行うことでドナー歯のダメージを最小限に抑えます。移植後の根管治療では、ラバーダム下でマイクロスコープでの精密根管治療を行うことで治療の精度を高めています。

親知らず抜歯だけでなく、歯牙移植や歯を残すための外科的歯内療法などにご興味がある方もお気軽にご相談ください。

長文お付き合いいただき、ありがとうございました。

道頓堀キムラ歯科クリニック

院長 木村沢郎


参考文献
文献(1):上條雍彦 : 日本人永久歯解剖学. 183-184, アナトーム 社, 東京, 1988. 


文献(2):『わが国における歯内療法の現状と課題』須田 英明(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科接触機能保存学講座歯髄生物分野/平成23年 発表)
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