親知らずの抜歯で、普通の歯医者さんと口腔外科医は何が違うの?
こんにちは。道頓堀グリコの看板から西に徒歩1分のところにある「道頓堀キムラ歯科クリニック」の院長の木村沢郎(キムラサワオ)です。
道頓堀や難波では、国内や国外の旅行客の方を沢山見かけるようになりました。コロナ前と同じぐらいかそれ以上に旅行されている方が増えているように感じますね。
それに伴い、ギターの弾き語りだけでなく、ドラムを演奏している方や、この前は大きなホルンでパフォーマンスをされている方もいらっしゃいました♬
毎日がお祭り騒ぎな感じで、賑やかになりましたね。
今回は、「親知らず」についてお話をしたいと思います。
「親知らず」を抜いた方やまだ抜いていない方、もしかしたら親知らずがあるかどうかを知らない方もいらっしゃるかもしれませんね。
日々診療をしていると、「親知らず」についての正しい情報を歯医者さんから教えてもらっていない方に出会うことが何度もあります。
- 親知らずの虫歯があるにも関わらず放置したために、手前の歯に大きな虫歯になり神経をとる治療(抜髄)や抜歯になってしまった場合
- 奥歯を抜かないといけない状態なのに、歯牙移植できる上の親知らずを抜いてしまっている場合
- 何度も親知らずの腫れを繰り返しているのに、抜かなくてもいいと言われている場合 など・・・
当院で初診で訪れる方や、当院に併設している「ホワイトエッセンス」にホワイトニングやクリーニングでに来院された方のお口の中を診察した際に、この様な方に出会うことがあります。
その度に、「診察した歯医者さんが正しい情報を伝えていれば!!」と、とても残念に思います。
多くの「親知らず」を抜歯してきた日本口腔外科学会認定医として、また歯牙移植などの「親知らず」を生かす治療を行なっている歯科医師として、歯医者さんに対してだけではなく、患者様に正しい情報を知っていただくことが自分の役割と思います。
「親知らず」について相談する歯科医院選びのポイントは、大学病院の口腔外科と同じレベルの
「難しい親知らず」を抜歯する技術と、
歯牙移植や矯正治療を含めて
「親知らずを生かす」治療技術の両方を持っていることです。
まずは、口腔外科医としての親知らず抜歯のお話をしたいと思います。
「神経が近いから親知らずの抜歯のリスクがとても高いと言われました」
「神経が近いから抜かない方がいいよと言われました」
「前の歯医者さんに言われたのですが、本当ですか?」と聞かれる時があります。
それは本当でしょうか?
Question:口腔外科での親知らず抜歯は、何が違うの?
抜歯技術はもちろんですが、診断技術が違います。
口腔外科医ではなくても親知らずを抜歯される歯医者さんはいらっしゃいます。
その中に、口腔外科医のようにどんな親知らずでも抜歯できる、すごい先生もいらっしゃいます。
そのような経験豊富な歯医者さんや口腔外科医は、抜歯技術と診断技術のどちらも優れています。
親知らずの診断のポイントの1つに、親知らずの根と神経(下歯槽神経)との距離を診断することが大切になります。歯科用CTで撮影することで正確に診断することが可能ですが、この写真の様に大きなレントゲン(パノラマレントゲン)から、CTと同じ様な三次元での位置を想像できる診断技術が大切です。
下のレントゲンを見たときに、親知らずと神経とは十分な距離があることが予想できます。
歯の根には「歯根膜腔」という根と骨の間を繋いでいる線維性の組織があります。ここは骨と違うためレントゲンで映ったときには黒い隙間がある様に見えます。
このレントゲンでは、下歯槽神経の白い線と歯根膜腔の黒い線が混ざらずに、クリアに歯根膜腔を確認できます。このことから親知らずが下歯槽神経よりも手前側にあり、また十分距離があることが予想できます。
実際にCT画像で確認すると、大きなレントゲンからの予想通り、親知らずと下歯槽神経との間には大きな距離があります。
(ちなみに、親知らずの根と神経がくっついていても、神経に対して負担が少ない抜歯の戦略を練り上げることで、力のかける方向をコントロールすることができます。下歯槽神経へのダメージをできる限り少なくすることが可能です)
他にも大きなレントゲンから多くの情報を得ることができます。
親知らずの位置や下歯槽神経との距離、親知らずの根の大きさや曲がり方、奥の骨とのスペース、実際にお口の中から見える時の親知らずの見え方、抜歯した後の骨と歯肉の治り方などをイメージします。
事前にCTを撮った後に、また抜歯をしている最中に、その答え合わせを繰り返すことで、その診断技術が高くなっていきます。
この訓練を、口腔外科の勤務時代に何度も何度も繰り返していました。
今でも同じ考え方で診療を続けています。
余談
ここだけの話ですが、口腔外科での親知らずの抜歯は、研修医や研修医上がりの新人の仕事です。上級医も親知らずを抜歯しますが、若手の口腔外科医にとって親知らずを数多く抜歯することが最初のステップになります。
親知らずの抜歯には、診断から歯肉の切開、骨削除、歯冠分割、縫合など口腔外科の基本的な処置が全て詰まっています。そのため若手の口腔外科医は、親知らず抜歯を通して外科処置を学びます。
ですので、大学病院の口腔外科や中規模の口腔外科での親知らず抜歯では、研修医や若手の口腔外科医が担当する場合があります。
当院の親知らず抜歯について
大学病院や大きな病院へ紹介される様な親知らずの抜歯でも、当院では初診当日に抜歯をすることが可能です。
例外的に当日の抜歯が困難な場合もあります。それは親知らずの腫れが強い場合や、腫れや顎関節症でお口が開けにくい状態の場合は、内服薬等で炎症を抑えたあとの抜歯になります。
詳しくはご相談いただければ幸いです。
・当院の親知らず抜歯の流れ
①口腔内写真・レントゲン撮影
術前の状態を写真で記録します。
顎全体のレントゲンで、親知らずと他の歯の位置関係や虫歯や歯周病の状態を把握します。
他の歯の虫歯や歯周病の状態、顎の関節の状態なども総合的に口腔内外の状態を診断します。
②歯科用CT撮影
歯科用CTで親知らずの三次元的な位置を確認します。
顎の骨の中の神経(下歯槽神経)との距離や、親知らずの根の形や歯の骨に隠れている範囲を正確に把握することで、正確な診断と低侵襲な抜歯の方法を計画します。
③マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)検査
親知らず以外の歯の状態を詳しく調べます。
肉眼では発見することが難しい小さな虫歯や被せ物の隙間の虫歯の有無などを、歯科専用の顕微鏡で高倍率の動画で撮影をします。
普段目にすることがない虫歯などを大型モニターで見ることで、今のお口の状態を正確に肉眼で確認していただくことが出来ます。
④カウンセリング・抜歯説明
撮影した写真やレントゲン、CT、マイクロスコープの動画を使って、目で見て分かる説明を心掛けています。
抜歯の流れや術後の注意点などを、文章を使って一緒に確認していただきます。
⑤麻酔
表面麻酔を充分効かせた後に、下の親知らずでは「伝達麻酔」という下の顎が半分痺れる麻酔と親知らずの周りに局所麻酔(一般的な歯医者さんの麻酔)を行います。下の親知らずの抜歯を痛みなく行うためには、「伝達麻酔」は必須の技術です。「伝達麻酔」をしてくれる歯科医院を選ぶことが、痛みに配慮した抜歯をしてくれる歯科医院選びのポイントになります。
⑥抜歯
腫れを抑えるために大切なことは、骨を削る量を最小限にすることと、歯茎の治りを考えた切開を行うことです。
大学病院の口腔外科時代には早く抜歯をすることが求められていたので、大きく切開し、骨を大きく削り、早く抜歯を行うことを意識していました。
一般歯科で勤務をしてから大切にしていることは、侵襲を小さくし、出来る限り抜歯の負担を少なくすることです。そのためには、抜歯の技術に加えて、歯周外科の繊細なテクニックを用い、拡大視野下での丁寧な処置を心掛けています。
・抜歯後の流れ
抜歯後1週間前後での抜糸を行います。
抜歯翌日の傷口の洗浄・消毒については、当院では基本的には必要ないと考えています。
菌が多くいるお口の環境に対して、消毒薬で洗っても実際に消毒の効果はほとんどありません。
感染している部分の抜歯処置でなければ、抜歯後の感染が起こる場合は3~4日以降の場合が多くあります。
そのため抜歯後翌日での診察の本当の意味は、腫れの確認と追加のお薬が必要かどうかの判断のために診察をされている歯医者さんが多いようです。
当院でもご希望のある方は消毒での診察が可能ですので、お声がけ下さい。
親知らず抜歯についてのお話の第一弾として、今回は「親知らず抜歯の際の口腔外科医の診断ポイント」についてお話をしました。
次回は、親知らずを「抜いた方がいい場合」と「抜かない方がいい場合」についてお話をしたいと思います。
長文お付き合いいただき、ありがとうございました。
道頓堀キムラ歯科クリニック
院長 木村沢郎