歯のコラム

歯を失ったときの治療は順番が重要|インプラントの前に検討すべき矯正と歯牙移植


道頓堀キムラ歯科クリニック、院長の木村沢郎です。

当院には、難波や心斎橋駅の周辺にお住まいの方はもちろん、大阪市外からも「歯を失った後の治療で悩んでいる」という患者さんが多くいらっしゃいます。


実際に他の歯科医院で「この歯はもう抜くしかありません」と診断され、その場ですぐにインプラント治療を勧められたという経験をお持ちの方も少なくありません。

しかし、歯科医師としてお伝えしたいのは、歯を失ったときの治療には本来、明確な優先順位(治療の順番)があります。

この記事では、

歯を失ったときにまず検討すべき治療法とは?

なぜインプラントの前に「矯正」や「歯牙移植」を考えるべきなのか?

✔ 長期的に歯を守るための治療の優先順位

について、生涯を見据えた治療戦略の観点から、歯科医師の視点でわかりやすく解説していきます。

「インプラントしかない」と言われて不安を感じている方こそ、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。


「インプラントしかない」と言われていませんか?

歯を失ったとき、すぐに「インプラント」という選択肢が提示されるケースは少なくありません。

もちろん「インプラント」は非常に優れた治療法であり、
自分の歯のようにしっかり噛めるため、多くの患者さんの生活の質(QOL)を向上させています。
しかし、優れた治療法だからといって、「真っ先に選ぶべき第一選択肢」とは限りません。

患者さんの歯の状態や噛み合わせ、将来のリスクによって、
最適な治療は大きく異なります。


歯科医師が提案すべきなのは、単に「欠けた場所を埋めること」ではありません。

短期的な結果だけでなく、長期的な口腔内の健康を守る治療選択肢も含めた上で、

患者さんが治療法を選択することが大切です。

患者さんの年齢や噛み合わせによっては、インプラントの前に検討すべき2つの優れた方法があります。

自分の歯を使い続けられる「2つの再建治療」

インプラントを選択する前に、必ず検討してほしい治療法が2つあります。これらは、「自分の天然歯」を活用する方法です。

矯正によるスペースクローズ

これは、歯を移動させることで、歯を失ってしまった隙間を物理的に閉じる方法です。
隙間を埋めるために何かを「入れる」のではなく、歯の移動で隙間を「無くす」という発想です。
噛み合わせを再構築しながら、
神経のある自分の歯をそのまま使い続けられることが最大のメリットです。

▶自家歯牙移(じかしがいしょく)

機能していない「親知らず」や、矯正治療の抜歯することになった歯を、歯を失った部分に「植え替える」治療です。

自分の歯を移植するため、体への親和性が非常に高く、歯だけでなく歯の周囲組織まで回復できる、本当の「再生療法」といえます。


インプラントにはない「歯根膜」の圧倒的な価値

なぜ、これほどまでに「自分の歯」にこだわる必要があるのか?それは、 
天然歯にあってインプラントには絶対に存在しない、
「歯根膜(しこんまく)」という組織が極めて重要な役割を果たしているからです。


歯根膜とは、歯の根と顎の骨の間にある、わずか0.2mmほどの薄い膜状の組織ですが、この小さな組織が、私たちの健康な口腔内環境を陰で支えています。


①クッション機能(緩衝作用)

歯根膜は、噛んだときにかかる強い衝撃を吸収する「クッション」のような役割を果たします。 このクッションがあるおかげで、顎の骨に適切な刺激が伝わり、骨が痩せるのを防ぎます。また、お米の中に小さな石が混じっていたとき、「あ、硬い!」と瞬時に察知して噛む力を緩めることができるのは、この歯根膜が高度な感覚センサーとして働いているからです。

免疫機能(防御作用)

歯根膜には豊富な血流と、白血球などの免疫細胞が存在します。 これにより、歯の周囲に細菌が侵入しようとしても、体が抵抗して炎症を最小限に食い止めようとします。細菌感染に対して防御反応を起こしす重要な場所です。

免疫機能 :歯根膜には免疫細胞が存在し、細菌感染に対して防御反応を起こします。

一方、インプラントはどうでしょうか?

インプラントは顎の骨と直接結合するため、この「歯根膜」がありません。 そのため、以下のデメリットがあります。

  • 噛む力のコントロールが難しい: センサーがないため、無意識に過剰な力がかかり、インプラント自身や対合する歯などを痛めることがあります。
  • 細菌感染に弱い: 防御反応が働きにくいため、一度炎症が起きると進行が非常に速く進みます。その結果、インプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」を引き起こしてインプラント周囲の骨が溶けやるリスクが高くなります。

だからこそ、インプラント治療を行う際には、天然歯以上に「精密な噛み合わせの設計」と「シビアなメインテナンス(掃除)」が求められるのです。

つまり、インプラント治療を選択する際には、インプラントの件数が多いかどうかは重要ではなく、
噛み合わせ治療や歯を残す治療に精通した歯科医師を選ぶことが極めて重要といえます。


どんな人に「矯正」や「歯牙移植」が特におすすめなのか

結論から言うと、若い方ほど矯正治療や歯牙移植を優先的に検討する価値があります。

「インプラントは一生持ちますか?」という質問をされることがあります。 お答えとしては、非常に長持ちしますが、一生ものと断言するには条件があります。

信頼性の高いデータによると、インプラントの10年生存率は約92~95%と報告されています。
(出典:厚生労働省委託事業・日本歯科医学会「歯科インプラント治療指針 2020年改訂版」)

これは高い数字ですが、裏を返せば「20人に1人は10年以内に何らかのトラブルで失う可能性がある」ということです。特に、喫煙習慣がある方、歯周病のリスクが高い方、噛み合わせの強い方は注意が必要です。

若い方ほど「中継ぎ投手」が必要

もし、20代や30代でインプラントを入れた場合、そのインプラントを50年以上持たせる必要があります。10年間で考えるとリスクは高くありませんが、半世紀のスパンで考えると、インプラント周囲炎による喪失のリスクが高くなってくると言えます。

そのため、健康な自分の歯だけで治療が完了する「矯正治療」が理想的な治療と言えます。

その次に優先したい治療は、「歯牙移植」による「時間を稼ぐ治療戦略」です。これらは野球で例えるなら、切り札であるインプラントを出す前の「中継ぎ投手」のような存在です。

歯牙移植で長期間機能させることができれば理想的ですし、
仮に将来的に抜歯となった場合でも、歯牙移植による周囲組織の再生によって

・欠損部の骨の回復を促す
・インプラント治療時の骨造成を減らせる
・治療期間を短縮できる

といった大きなメリットがあります。

結果として、最終的にインプラントが必要になった場合でも、
そのインプラントが一生機能してくれる”可能性”を高めることにつながります。

そのため、若い方ほど可能な限りインプラント以外の選択肢で時間を稼ぐ治療戦略が非常に有効になります。


矯正の予備知識:歯を並べる「スペース」の考え方

矯正治療で最も大切なのは、「限られた顎の骨の中に、いかに健康に歯を配置するか」という診断です。そのためのアプローチは大きく分けて2つあります。

1. 非抜歯矯正(歯を抜かない方法)

歯が並ぶ土台(歯列弓)を側方に広げたり、歯の傾きを外側に調整したり、歯の表面をコンマ数ミリずつ削る(IPR)ことで、わずかなスペースを作り出す方法です。

  • 【メリット】
    • すべての天然歯を残せる: 健康な歯を一本も抜かずに治療を進められます。
    • 治療期間の短縮: 抜歯矯正に比べて歯を動かす距離が短いため、全体的な治療期間が短くなる傾向にあります
  • 【注意点】
    • 骨の限界: 顎の骨の幅(厚み)に余裕がない場合に無理に行うと、歯の根が骨からはみ出したり、将来的に歯茎が下がる(歯肉退縮)リスクがあります。
    • 顔立ちの変化: 並べるスペースが足りない場合、歯が外側に押し出され、口元の突出感(口ゴボ)を改善できない、あるいは強めてしまうことがあります。

2. 抜歯矯正(歯を抜いてスペースを作る方法)

顎の大きさに比べて歯が明らかに大きく、きれいに並べるための物理的なスペースが不足している場合に行われます。一般的には、上下左右の小臼歯を計4本抜くことで、まとまったスペースを確保します。

  • 【メリット】
    • 長期的な安定性: 歯を無理なく骨の中に収めることができ、噛み合わせが長期的に安定しやすくなります。
    • 口元の改善: 確保したスペースを利用して前歯を後ろに下げられるため、口元の突出感など見た目の大きな改善が期待できます。
  • 【注意点】
    • 健康な歯の喪失: 矯正のために健康な歯を抜く必要があります。
    • 治療期間: 非抜歯矯正に比べ、歯を移動させる距離が長くなるため、治療期間が延びる傾向にあります。

💡 「スペースクローズ」は、この仕組みを応用した治療です

今回お話ししている「矯正でのスペースクローズ」は、この抜歯矯正の理論を応用したものです。

通常は「歯並びを整えるために健康な歯を抜く」ところを、「すでに失ってしまった歯の場所」を、矯正に必要なスペースとしてそのまま活用するという考え方です。

矯正が必要な歯並びの方にとっては、欠損を補いながら歯並びも綺麗になる、非常に価値の高い治療といえます。

重要なのは「抜くか抜かないか」という目先の選択ではなく、「歯並びが悪くなっている根本的な原因」を診断し、10年後・20年後も安定して機能する環境をどう作るかという点にあります。


🦷 具体的に「矯正」が適応となるのはどんなケース?

実際にどのような状況であれば、「矯正でのスペースクローズ」を検討できるのか、代表的な2つの例を解説します。

① 小臼歯(真ん中の歯)を失った場合

もともと、「ガタガタな歯並びを治したい」、「口元が出ているのが気になっていた」という方には、特におすすめのケースですそのような方は、歯と顎の大きさのアンバランスがあるため、歯をきれいに並べるための小臼歯の抜歯が必要となる「抜歯矯正」が適応となる場合がほとんどです。

このような骨格や歯列条件の方が小臼歯を失った場合、
本来矯正で抜く予定だったスペースをそのまま活用し、歯を移動させて欠損部を閉じることが可能になるケースがあります。

  • 本来「抜く予定だったスペース」を再利用: 矯正治療で抜くはずだった場所の歯を失ってしまった場合、その隙間を埋めるように周りの歯を移動させます。
  • 不安な歯を矯正抜歯の歯と選択: もし他に「神経がない歯」や「大きな虫歯がある歯」があれば、そちらを優先的に抜歯して矯正スペースに充てることも可能です。リスクの高い歯を減らし、健康な歯だけを残す戦略的な治療ができます。

結果として、全体としてリスクが高い歯を少なくすることが可能になり、お口の健康寿命を伸ばすことに貢献できます。

② 奥歯を失い、「親知らず」が残っている場合

特に上の奥歯(第一・第二大臼歯)を失った際に、非常に有効なケースです。

  • 親知らずを「代打」として使う: 失った奥歯のさらに後ろに健康な親知らずが眠っていれば、それを矯正で前方に引き出し、失った歯の代わりとして機能させます。
  • 「歯根膜」による生理的な機能を維持:最も強い力がかかる奥歯の部位に、歯根膜という天然のクッションを持つ自分の歯を配置できることで、インプラントにはない「噛む力の繊細なコントロール」や「細菌に対する防御機構」を、本来の歯と同じように維持することが可能になります。

こうした精密でダイナミックな歯の移動を実現するためには、「インプラントアンカー(矯正用スクリュー)」や「精密なワイヤー矯正」といった、高度な治療技術を組み合わせて行う必要があります。

「矯正=見た目を整える治療」と思われがちですが、実際には失った歯を補い、お口の機能を根本から立て直す「再建治療」でもあるのです。


矯正が難しい場合に次に考える治療が歯牙移植

矯正治療が適応にならない場合や、期間の問題で難しい場合には、

次に検討すべき治療が(自家)歯牙移植です。

この治療については、
次回のブログで詳しく解説していきます。

🏥治療の選択肢をすべて説明できる歯科医師を選ぶ重要性

歯科医師にもそれぞれ専門分野があります。

インプラントが得意な先生は、
インプラント中心の治療計画になりやすい傾向があります。

だからこそ重要なのは、

✔ すべての治療選択肢を説明できること
✔ リスクとメリットを正確に伝えること

できない治療は正直に伝え、
必要であれば専門医を紹介できる姿勢こそが、
本当に信頼できるかかりつけ歯科医だと考えています。

長文お付き合いいただき、ありがとうございました。

道頓堀キムラ歯科クリニック

院長 木村沢郎


📚 参考文献

・厚生労働省委託事業・日本歯科医学会『歯科インプラント治療指針(2020年改訂版)』

・日本口腔インプラント学会「口腔インプラント治療指針」

電話する
web予約