「学校の歯科検診で『むし歯があります』という手紙をもらって、心臓がドキッとした…」 「うちの子、歯医者さんで泣いて暴れたらどうしよう…」 「痛い思いをさせて、歯医者嫌いになったら…」
子どもの虫歯が見つかった瞬間、そんな不安で頭がいっぱいになってしまうお母さん・お父さんは多いのではないでしょうか。
大切な子どものことだからこそ、「どうしたら怖がらずに治療を受けられるのか」「どんな治療が必要なのか」をしっかり知っておきたいですよね。
私自身、多くの子供たちの診療を担当してきましたが、過去の嫌な経験から歯医者さんが苦手になってしまったお子さんをたくさん見てきました。大人になっても、苦手意識が残る方も多くいらっしゃいます。お子さんにとって「歯医者さんでの最初の体験」は、その後の歯の健康を一生左右すると言っても過言ではないほど重要です。
でも、ご安心ください❗️
正しい知識とステップを踏めば、お子さんを歯医者嫌いにさせることなく、しっかりと治療と予防を進めることができます。
この記事では、
1️⃣ 子どもの虫歯が大人と違う理由
2️⃣ 歯医者嫌いにさせない親の関わり方
3️⃣ 子どもを笑顔にする歯科医院での工夫
の3つを中心に、歯科医師の立場から分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、治療への漠然とした不安が、「うちの子なら、こうすればきっと大丈夫!」という具体的な自信に変わっているはずです。
1. なぜ?が分かれば怖くない!子供の虫歯が大人と違う3つの特徴
お子さんの虫歯は、「大人の虫歯」とはまったく違います。
「乳歯だから大丈夫」と思って放っておくと、後悔するケースも少なくありません。
ここでは、特に注意しておきたい3つの特徴をお話しします。
1-1. 小さく見えても中で広がる!進行の速さがケタ違い
「えっ、こんなに小さな穴なのに、神経の近くまで虫歯が進んでいるんですか!?」
当院ではお子さんの虫歯治療をマイクロスコープで撮影をしています。治療後にご両親にマイクロスコープの動画を見てもらうと、多くの方が驚かれます。
子供の虫歯の特徴は、「発見が遅れやすく、大人の何倍ものスピードで進んでしまう」ことです。
その理由は、子供の歯のもろい構造にあります。

・歯の表面が薄い:乳歯や生えてすぐの永久歯は、表面を守る鎧にあたるエナメル質が、大人の歯のよりも薄く、まだ未熟です。そのため、虫歯菌が出す酸に対する抵抗力が弱く、簡単に溶けてしまいます。
・歯の内側も柔らかい: エナメル質の内側にある象牙質も密度が低く柔らかいため、一度内部に虫歯が侵入すると、あっという間に広がってしまいます。
特に注意が必要なのが、歯と歯の間から始まる虫歯です。歯の表面には虫歯の穴が空いていないように見えても、歯と歯の間から虫歯が侵入し内側で大きく進行しているケースが多くあります。
そのため、お子さんの場合は特に、「咬翼法(こうよくほう)」と呼ばれる小さなレントゲンで、歯と歯の間の虫歯をチェックすることが大切です。虫歯のリスクが高い場合は、半年から1年に一度、咬翼法のレントゲン撮影を行います。
また、もう一つ知っておいてほしいのは、子供は「虫歯の痛みを感じにくい」ということです。子供は虫歯が神経まで進行しないと、痛みを訴えることはほとんどありません。
もしお子さんが、
「ご飯を食べると痛い」、
「冷たい飲み物で顔をしかめる」 、
「甘いものを食べた後、歯を押さえている」
といった具体的な症状を訴えた時は、すでに虫歯がかなり進行していることも多くあります。
だからこそ、「痛みが出る前に見つける」「そもそも虫歯をつくらない」ことが何より大切です。
この2つを大切にしてくれる、かかりつけの歯医者さんを見つけることが何よりも重要です。
1-2. 乳歯の虫歯が、将来の歯並びを狂わせる
「乳歯はどうせ生え変わるから、虫歯になっても大丈夫ですよね?」
それは大きな間違いです。乳歯には、後から生えてくる永久歯を導く“ガイド”の役割があります。
乳歯には、後から生えてくる永久歯が正しい位置に生えるための、「場所取り」の役目があります。虫歯で早く抜けてしまうと、そのスペースに隣の歯が倒れ込んでしまい、永久歯が生えるスペースがが足りなくなります。これが、将来の歯並びの乱れの原因になります。
知っていますか?乳歯の奥歯にある「特別なスペース」
通常、このスペースは歯の生え変わりに合わせて自然に閉じてしまいます。
しかし、例えば出っ歯などのお子さんの場合、このスペースが閉じてしまう前に「リンガルアーチ」などの簡単な矯正装置で維持することで、歯を動かすための貴重なスペースとして有効活用できます。つまり、体の成長を利用して、将来の本格的な矯正の負担を減らせる可能性があります。
この治療法が可能なのは、乳歯が永久歯に生え変わる7歳~9歳ごろの短い期間に限られます。
お子さんの歯並びが少しでも気になる方は、この「ゴールデンタイム」を逃さないためにも、ぜひかかりつけの歯科医にご相談ください。

<歯医者さんへの質問の例>
- 「乳歯の生え変わりを利用した矯正はできますか?」
- 「うちの子はリーウェイスペースを使った矯正の対象になりますか?」
1-3.最初の治療体験が“トラウマ”になることもある
「歯医者さんが怖い」という気持ちは、実は子供の頃の体験が原因であることが多いです。
子供時代の歯医者さんの治療で「痛い思い」や「怖い思い」などの恐怖体験をされています。大人でも歯医者さんでの痛い治療を経験すると、次の受診を先延ばしにしたくなると思います。子供ではそれがより顕著になります。
その結果、歯医者さんの治療で暴れてしまう場合もあります。
そんなお子さんに対して、「無理やり押さえてでも治療してほしい」とおっしゃる親御さんもいらっしゃいます。もし仮にそのような治療をしても、虫歯の多くを取り残したり、唾液だらけでのレジン充填はすぐに脱離します。子供さんも親御さんも苦労して治療しても不完全な治療しか出来ず、身体的な負担だけでなく心に深い傷(トラウマ)を残すリスクがあります。
その一度の怖い経験が、大人になっても歯科治療を避ける原因になりかねません。子供さんの気持ちを尊重し、お子さんの個性に合わせてステップを踏んで治療を進めてくれる歯科医院を選ぶことが何よりも重要です。
逆に歯医者さんで褒められる経験していない子供は、喜んで歯医者さんに来ます。
私の子供達は、いつも歯医者さんに行くことを楽しみにしています。虫歯の治療の経験がないこともありますが、メンテナンスでいつも褒められることしか経験をしていないため、歯医者さんが楽しいところと思っているみたいです♪
2. 歯医者さん嫌いにさせない!親ができる4つのこと
虫歯の治療が必要だとわかっても、一番の心配は「うちの子、ちゃんと治療を受けられるかな?」ということではないでしょうか。
お子さん歯医者嫌いにさせないためには歯医者さんでの対応はもちろんですが、その前のお父さんお母さんの関わり方も非常に大切です。
ここでは、歯医者さんに行く前にぜひ知っておいてほしいことをお話しします。
2-1. 「痛くないよ」はNG!前向きな言葉で伝える
お子さんを安心させようとして、「痛くないから大丈夫だよ」と言ってしまうこと、ありませんか?
でも実はこれ、逆効果なんです!
なぜなら、子供は「痛くない」という言葉から「痛い」というイメージを強く連想します。後半の「~くない」を聞く前に、「痛み」をイメージしてしまいます。
この場合は、「大丈夫だよ」、「虫バイキンをやっつけようね」「ピカピカにしようね」といったポジティブな言葉で伝えるのがおすすめです。
子供の「怖い」という気持ちを事前にどれだけ取り除くことが出来るかどうかがポイントです。
2-2. 嘘はNG!心の準備をさせてあげる
子供は嘘に敏感です。
「今日は見るだけだから」と言って連れて行ったのに、いきなり削る治療が始まる…。
これではお子さんの信頼を失ってしまいます。
お子さんは「ウソをつかれた!」と感じ、歯医者さんに対してだけでなく、お母さんやお父さんへの信頼も失ってしまいます。正直に「今日は歯医者さんに虫歯のチェックだけしてもらおう」と伝えた場合は、歯医者さんに治療を後日にする旨をお伝えください。
子供は小さくても、親の言葉をしっかり聞いています。
正直に話し、心の準備をさせてあげることが、信頼関係を育てる第一歩です。
2-3. 治療が終わったら、たくさん褒めて自信をつける
治療が上手にできても、できなくても、歯科医院に行けたこと自体を「よく頑張ったね!」と思いっきり褒めてあげてください。椅子に座れただけでも立派な一歩です。
その一言が「また頑張ろう」という気持ちを育てます。ご両親の温かい言葉は、何よりも大きなご褒美になります。
2-4. 年齢に応じて「母子分離」を取り入れる
「母子分離(ぼしぶんり)」とは、お子さんの歯科治療やメンテナンスの時に、親御さんが診療室に同席せずに、子供さんだけで治療を受ける方法です。
母子分離の目的は、
①自立心を育てる
親御さんが近くにいると、お子さんはどうしても甘えてしまいがちです。離れてメンテナンスや治療を受けることで、「自分で頑張る」という意識が育ちます。
②集中して治療できる
歯医者さんや歯科衛生士さんと、お子さんとの関係になるため、お子さんが集中できる環境になります。その結果、短時間に治療やメンテナンスを終わらせることができることに繋がり、お子さんの負担を少なくすることが出来ます。
③成功体験を得られる
メンテナンスや治療を一人でやり遂げると、お子さんは頑張れたことに対して自信を持ちます。そのことをお母さん、お父さんに認めてもらうことで、お子さんにとって強い成功母子分離は、お子さんの成長段階や個性で差がありますが4歳頃から少しずつ段階的に始めるのが一般的です。いきなり完全にご両親と分離するのではなく、お子さんの成長段階に合わせて段階的に進めていくことが大切です。
治療の前後で親御さんにも説明を行います。マイクロスコープで撮影した虫歯の動画や写真をご両親やお子さんと一緒に確認し、お子さんが頑張って治療が出来たことを確認してもらいます。母子分離は、「子どもが頑張る場面をつくる」、「親御さんが子供さんを褒める場面を作る」方法でもあります。
まとめ:歯医者デビューを“怖い体験”から“誇らしい体験”に
お子さんの歯医者デビューが「怖い思い出」になるか、それとも「『できた!』という自信と笑顔につながる、成長の一歩」になるかは、お父さん、お母さんの温かいサポートと、歯科医院選びで決まります。
お子さんの歯の治療は、ただ虫歯を治すだけのものではありません。それは、お子さんのこれからの人生を支える「歯の健康」を守り、「ひとりで頑張れた!」という自信を育むための、かけがえのない大切な時間なのです。
今回お話ししたことが、その第一歩を踏み出すための、ちょっとしたヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
道頓堀キムラ歯科クリニック
院長 木村沢郎