こんにちは。難波、心斎橋の中間にある、道頓堀キムラ歯科クリニックの院長の木村沢郎です。
前回は、パーフォレーションとパーフォレーションリペアを中心にお話をしました。
歯の根に穴が空いてしまっていても、諦めるのは早いかもしれません。
まずは、正しい知識を患者さん自身が持つことが大切です。このコラムがその一助になれば幸いです。
前回、右下6の近心根内側のストリップパーフォレーションに対して、バイオセラミック系シーラーとパテでパーフォレーションリペアを行い、バイオセラミック系シーラーでシングルポイント根充を行ったお話をしました。
今回の症例では、右下6にパーフォレーションリペアを行っても腫脹と症状の改善を認めませんでした。
その理由は、パーフォレーションの中でも治りやすい場合と治りにくい場合があるからです。
パーフォレーションの成功率が低くなる要因
①パーフォレーションが起こってから長い期間が経過している。
パーフォレーションが生じた直後に封鎖することが重要です。
パーフォレーションが起こっている期間が長くなると細菌感染の可能性が高くなり、同じようにパーフォレーションリペアを行った場合でも成績が悪くなるとされています。(文献1)
そのため、パーフォレーションが生じた直後に封鎖することが大切です。
②ストリップパーフォレーション
パーフォレーションの種類によって成功率が変わると言われています。
パーフォレーションは、「髄床底穿孔」、「根管側壁の穿孔」、「ストリップパーフォレーション」、「根尖付近の穿孔」に大きく分けられます。この中でストリップパーフォレーションが特に成功率が低くなると言われています。
ストリップパーフォレーションとは、奥歯の根管の内側で発生するパーフォレーションのことです。
上と下の奥歯の手前側の根(上下顎大臼歯近心根の遠心側)はソラマメ状に凹んでおり、下の奥歯(下顎大臼歯近心根内湾側)では1mm程度の厚み程度しかありません。
ストリップパーフォレーションはこの穿孔部と歯周ポケットが近いため、医原性の歯周病が起こることで成功率が下がること可能性があります。
また、穿孔部の形が楕円形となり、その周囲の歯質も非常に薄いため、技術的に封鎖が難しくなることも成功率が低くなる要因です。
またパーフォレーション部と歯周ポケットが近いため、歯周ポケットとパーフォレーション部が繋がる可能性が高くなります。
そのため、他の場所で起こるパーフォレーションよりも成功率が低くなると言われています。
パーフォレーションの治療方法には大きく2つあります。
①非外科的に治療(パーフォレーションリペア)
②外科処置を併用または外科処置のみで治療
①パーフォレーションリペアでも改善が認めない場合、またはパーフォレーションリペアでの治療の成功率が高くない場合には、
「②外科処置を併用または外科処置のみで治療」が適応になります。
今回の症例は、
①「以前の根管治療でストリップパーフォレーションが起きているため、細菌感染が起こってから長い時間が経過している
②パーフォレーション部と歯周ポケットが交通している
③顎が大きく晴れるぐらいに強い細菌感染が起こっている
④レントゲン画像、CT画像より、広範囲の顎の骨が溶けており、長期間の感染と細菌数が多い
以上の理由から、パーフォレーションリペア単独での治癒が難しいと考えていたので、
「パーフォレーションリペア②外科処置を併用または外科処置のみで治療」
を行うことを計画していました。
外科処置とは、外科的歯内療法である
①歯根端切除術と
②意図的再植術
があります。
・歯根端切除術ってどのような治療ですか?
根管治療を行っても治癒しない場合があります。(文献2)
マイクロスコープを使用した精密な根管治療でも、感染源である細菌数の減少には限りがあります。
その場合は一般的には抜歯と診断されますが、歯を保存できる場合が多くあります。
精密根管治療の次の手段として、外科的歯内療法があります。
外科的歯内療法には「歯根端切除術(Apicoectomy)」と「意図的再植術(Intentional Replantation)」がありますが、適応できる部位ならまずは「歯根端切除術」が適応になります。
(意図的再植術はアメリカではLast Resortとも呼ばれている最終手段になります。意図的再植術については別の機会で詳しくお話をしたいと思います。)
「歯根端切除術」とは、文字通り、歯根の端(先)を外科的にカットする治療です。
歯根には主根管以外にも「側枝」と呼ばれる枝のような細い根管があります。
その枝はレントゲンで見える場合もありますが、多くの側枝は細いためレントゲンでは発見できません。
根管治療で治癒しない場合には、その枝や根管壁の内部に感染源である細菌が除去できていないことが原因の場合があります。
側枝は歯根の先(根尖)3mm以内にほとんどが含まています。(文献3)
感染源である根尖3mmを外科的に切除することで、免疫が細菌数よりも上回ることで症状の改善、治癒に向かいます。
・誰が行っても「歯根端切除術」の成功率は変わらないのですか?
この治療はひと昔に行われていた従来法の「歯根端切除術」と、マイクロスコープを使用したマイクロエンドサージェリーでの「歯根端切除術」とでは、成功率に大きな差があります。
従来法の「歯根端切除術」の成功率は54%、それに対してマイクロエンドサージェリーで行なった「歯根端切除術」の成功率は94%と言われています。(文献4)
従来法は、口腔外科などで行われた「歯根端切除術」、またはそれと同様の方法を行なっている治療のことをいい、マイクロエンドサージェリーでの「歯根端切除術」は根管治療の専門家やそれと同様の知識と技術を使った治療のことをいいます。
【従来法の「歯根端切除術」】
- 裸眼または低倍率ルーペを使用
- 外科用のハンドピースとバー(親知らず抜歯などで使用する骨を削る道具)
- 骨の削る大きさが8mm以上
- 歯軸に対して45度程度で切断(歯に対して斜めに切断)
- 主根管のみ切断面を確認
- バーによる形成のため、根管に追従しない
- アマルガムで逆根管充填
【マイクロエンドサージェリーで行なった「歯根端切除術」】
- マイクロスコープを使用
- 超音波(逆根管形成チップ)での逆根管形成
- 骨の削る大きさが4~5mm程度
- 歯軸に対してほぼ垂直(0~10度)で切断
- 側枝やイスムスも含めて切断面を確認
- 超音波レトロチップを使用するため根管に追従する
- バイオセラミック系の生体親和性の高い材料で逆根管充填(バイオセラミック系シーラーとパテまたはMTA) (文献5)
両者の「歯根端切除術」は技術の精度を始め多くの違いがありますが、一番の違いは『感染源』に対する認識の差があると言えます。
従来法は『感染源』=根の先の病巣(根尖部の炎症性肉芽組織)を考えており、そのためそれを取り除くことで治癒すると考えていました。
病巣さえ取れれば良いという考えなので、裸眼での治療で問題ないと考えており、カットした根に対しは深く考えられていませんでした。
マイクロエンドサージェリーでの「歯根端切除術」では、『感染源』=根尖の側枝、根管内部に感染源があると考えています。
そのため、側枝の多い根尖3mmをカットし、根管内部の細菌を根管内に封じ込めるために封鎖性と生体親和性の高い、バイオマテリアルで精密に封鎖します。
精密に封鎖するために肉眼では見逃してしまうような細い根管や枝をマイクロスコープで確認する必要があるのです。マイクロスコープでも見逃す場合があるので、染め出して確認し、イスムスと呼ばれる根管と根管をつなぐ細いくぼみも削って封鎖します。
その結果、細菌の住処が減少することで感染源が少なくなり、免疫が勝つようになり治癒していきます。
・症例の治療について
今回の症例では、右下6の近心根(二股の根の手前側の根)をパーフォレーション部分も含めてマイクロエンドサージェリーで「歯根端切除術」を行い、
超音波レトロチップでの逆根管形、
バイオセラミック系シーラーとパテでの逆根管充填(Lidテクニック)
おこないました。
通常の根尖3mmの歯根端切除術ではなく、パーフォレーション部も含めて切除を行なった理由は、ストリップパーフォレーション部の汚染が強く感染源の除去が困難な可能性が高いと判断したためです。
・治療経過
1週間後に縫合部の抜糸を行い、精度の高い仮歯にて歯周病の進行のリスクを最大限考慮して経過観察を行いました。
2週間ほどで腫脹や疼痛などの症状の出現もなく、仮歯で問題なく噛むことができるようになりました。
歯肉と骨の治癒傾向を確認してから、セラミッククラウン(E-maxクラウン)をセットしました。
術後10ヶ月でのレントゲンとCT画像では、溶けていた骨の回復を認め、良好な治癒を認めました。
今回は、3回にわたり抜歯適応と言われた大臼歯の歯根端切除術を行い、保存した症例について解説をさせていただきました。大臼歯の歯根端切除術を行う歯科医院は非常に少ないですが、適切な診断と精密な治療を行うことで成功率が非常に高い治療と言えます。
セカンドオピニオンの方も多く来院されますので、いつでもお気軽にご相談ください。
長文お付き合いいただき、ありがとうございました。
道頓堀キムラ歯科クリニック
院長 木村沢郎
文献1:Holland R, Bisco Ferreira L, de Souza V et al.: Reaction of the lateral periodontium of dogs’ teeth to contaminated and noncontaminated per- forations filled with mineral trioxide aggregate, J Endod, 33:1192‒1197, 2007.
文献2:Torabinejad M, Corr R, Handysides R et al.: Outcomes of nonsurgical retreatment and endo- dontic surgery:a systematic review, J Endod, 35:930-937, 2009.
文献3:Deus D. Frequency, location, and direction of the lateral, secondary, and accessory canals. J Endod. 1975;1(11):361–6.
文献4:Setzer FC, Shah SB, Kohli MR, Karabucak B, Kim S. Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature–part 1: Comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery. J Endod 2010;36(11):1757-1765.
文献5:澤田則宏,マイクロスコープを使用した外科的歯内療法.日歯内療誌 33’2):75〜86,2012
紹介している症例はあくまで患者様固有の症例ですので、実際には患者様によって治療期間や治療法など個人差があります。
【年齢】
40代男性
【治療部位】
右下奥歯(右下6)
【治療内容】
・根の根管治療、根の外科治療で治療します
右下6急性根尖性歯周炎のラバーダム下での根管治、歯根端切除
・歯の被せ物をセラミックなどの白い素材で治療します
右下6ジルコニアセラミッククラウン作製
【治療期間】
根管治療:1回
歯根端切除:2回
仮歯作製:1回
セラミッククラウン形成印象・セット:2回
治療期間:3.5ヶ月
【費用】
自由診療
根管治療・歯根端切除:130,000円(税込)
セラミッククラウン:138,000円(税込)
【副作用・リスク】
根管治療後に腫れ、痛みが出る可能性があります
歯根端切除後に、腫れ、出血、しびれなどが出る可能性があります
根管治療・歯根端切除を行っても症状の改善を認めない場合は、歯の保存が困難な場合があります
歯ぎしりなどにより稀にセラミッククラウンが破損する場合があります
銀歯に比べて厚みがあるため、セラミッククラウンの方が歯を削る量が若干多くなります
被せ物も状態を維持するためには定期的なメインテナンスが必要となります。