『パーフォレーション(穿孔)リペア』
こんにちは。大阪難波・心斎橋にある「道頓堀キムラ歯科クリニック」の院長の木村沢郎(キムラサワオ)です。
最近はゲリラ豪雨が多くなってきましたね^^;
雨に急に振られた患者様にはハンドタオルを、医院を出られる時に雨が降っている場合には傘を貸し出しているので、いつでもお気軽にお声がけ下さいね。
前回に引き続き、他の歯医者さんで抜歯適応と診断された、右下の奥歯(右下6)を保存した症例を通して、歯を守るための診断のポイントについてお話をしていきます。
キーワードは、『パーフォレーション(穿孔)リペア』です♪
【前回の復習】
①どの程度の確率で保存できるか
ポイント①:歯の破折の有無、その可能性の診断
・レントゲンで明らかに割れていることが分かる場合
・マイクロスコープなどで破折線を発見できる場合
・プローブなどの細い器具が、深く入る部分がある
・レントゲンで「J」の形の様な黒い透過像がある(Jシェイプ)
・神経を取り除く処置(抜髄)を行なってから時間が経っている場合
・太い金属の土台(メタルコア)や、太い金属のネジ(スクリューポスト)を使用している場合
ポイント②
・「パーフォレーション(穿孔:せんこう)」の有無、その可能性の診断
- 「根の治療をしてから、歯茎が腫れたり、引いたりを繰り返しています」
- 「被せ物の近くの歯茎の腫れが前からあります」
- 「根管治療後に虫歯が大きいので抜歯と言われました」
- 「歯が膿んでいるので抜かないと言われました」
などで来院された患者さんの歯には、
「歯根のパーフォレーション」を認めました。
治療をしてもらっている歯医者さんでは、「原因を説明してもらえませんでした」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。
まずは、問題が起こっている歯に「パーフォレーション」が起こっているか、起こっている可能性があるかについて詳しく説明してくれる歯医者さんを選ぶことが、
大切なあなたの歯を残すためにとても大切です❗️
・「パーフォレーション」って何?
まず、「パーフォレーション」について説明をしていきましょう。
「パーフォレーション」とは、歯や根に穴が開いていることをいいます。
歯の根の内部の虫歯が大きい場合に虫歯を取り除いた時に穴が開いてしまう場合や、
根管を大きく削りすぎることで根管の内側の壁に穴が空いてしまう場合などがあります。
また、治療前のレントゲンやCT画像から、「パーフォレーション」を発見できる場合も多くあります。
・パーフォレーション (穿孔)があると抜歯になりますか?
パーフォレーションは、根管治療の失敗の原因の一つになっています。
パーフォレーションがある場合の2年後の成功率は60.5%、
特にストリップパーフォレーション(後で解説します)がある場合の成功率は28%との報告があります。(文献1)
また、我が国の一般診療所(普通の歯医者さん)の根管治療の失敗として、パーフォレーションが原因となったものは11.8%であり、
抜歯が必要になった症例の44.4%はパーフォレーションが原因であったとする報告があります。(文献2)
つまり、根管治療の失敗である「パーフォレーション」がある場合は、数年以内に腫れや噛んだ時の違和感、痛みなど問題の起こり、最終的には抜歯となってしまうことが多くあります。
その中でも「ストリップパーフォレーション(Stripping perforation)」は特に予後が悪いパーフォレーションと言われています。
・「ストリップパーフォレーション」とは
奥歯の根が曲がっている内側(臼歯部の湾曲根管内湾側)に起こるパーフォレーションのことであり、パーフォレーションの中でも予後が悪い一つとされています。
上下の大臼歯の根の一つ(近心根)は大きく湾曲していることが多く、上から見るとソラマメの様な形をしています。図の矢印の部分は非常に薄く(下顎大臼歯の近心根の遠心壁など)、凹んだ部分では1mm程度の厚みしかありません。
今回の症例も、下の奥歯(下顎第一大臼歯の近心根の遠心壁)に起こっているパーフォレーションも、ストリップパーフォレーションです。
・パーフォレーションの原因は何ですか?
パーフォレーションが起こる原因は大きく2つに分けられます。
1つは、歯科治療が主な原因ではない、『非医原性』のパーフォレーション です。
歯根吸収が進行することで、パーフォレーションが起こる場合があります。
歯根吸収の原因として、外傷や矯正治療、歯の萌出に伴う歯根膜の圧迫、歯の神経・周囲の組織の慢性的な炎症などが挙げられます。最近報告を見かけることが多い、侵襲性歯茎部吸収(Invasive Cervical Resorption(ICR) )もその一つと言えます。
もう1つは、根管治療やその後の被せ物を入れるための治療の過程(ポストコア処置時)で起こる、『医原性』のパーフォレーションがあります。
医原性のパーフォレーション の47%が根管治療中に発生し、残りの53%がポストコア処置時に発生しているとする報告があります。(文献3)
残念ながら、歯医者さんの不用心な治療で「パーフォレーション」が起こることがよくあります。
裸眼では見えない部分の根管治療を、手探りで、感覚で治療を行う場合に、根管を削りすぎてしまうことで起こることがあります。
多くの歯根のパーフォレーションは医原性なものと言えるかも知れません。
・どうしたらパーフォレーションを防ぐことができますか?
お口の中は非常に暗く、歯の根管は非常に細く、根管治療は非常に繊細な治療です。
そのため海外で行われる根管治療は、根管治療に精通した歯科医師が行います。
レントゲンとCT画像などで診断し、
ラバーダム防湿下(これが最低限必要!!)で、
マイクロスコープやニッケルチタンファイルを用いて、
バイオセラミック系シーラーでのシングルポイント根充やMTA根充を精密に行うことが、
非常に重要です。(世界標準の根管治療)
・パーフォレーションの治療方法はありますか?
パーフォレーションの治療方法には大きく2つあります。
①非外科的に治療(パーフォレーションリペア)
②外科処置を併用または外科処置のみで治療
①非外科的に治療(パーフォレーションリペア)
MTAやバイオセラミック系シーラーとパテを用いてパーフォレーション部を封鎖することで良好な経過を得られています。(論文4)
【オマケ】
バイオセラミックとは、生体である組織に直接接触した状態で、失われた生体機能を回復しうるセラミックのことで、その封鎖性、生体親和性、抗菌性などから従来の封鎖材に比べて非常に優れていることが報告されています。(論文5)
MTA(Mineral Trioxide Aggregate)は、正確に分類するとバイオセラミックではありませんが、バイオセラミックスの性質を示すことからMTAは、バイオセラミック系材料に分類されています。
MTAが1998年に製品化されてから、2010年代以降にはバイオセラミックス系の材料が根管治療に多く臨床で使用され、高い治療成績を収めています。
この症例では、右下6のパーフォレーション部に対して、バイオセラミック系シーラーとパテを用いて「パーフォレーションリペア」を行いました。
しかし、それでは症状の改善を認めなかったため、
②外科処置を併用または外科処置のみで治療
を行うことで、症状の改善と治癒を認めました。
次回は、症状の改善を認めなかった理由とパーフォレーションに対しての外科的治療についてお話をしたいと思います。
道頓堀キムラ歯科クリニック
院長 木村沢郎
文献1:Gorni FG, Gagliani MM:The outcome of end- odontic retreatment:A 2‒yr follow‒up, J Endod, 30:1‒4, 2004.
文献2:Yamaguchi M, Noiri Y, Itoh Y et al.:Factors that cause endodontic failures in general practices in Japan, BMC Oral Health, 18:1‒5, 2018.
文献3:Kvinnsland I, Oswald RJ, Halse A et al.:A clini- cal and roentgenological study of 55 cases of root
perforation, Int Endod J, 22:75‒84, 1989.
文献4:Tsai YL, Lan WH, Jeng JH:Treatment of pulp floor and stripping perforation by mineral triox- ide aggregate, J Formos Med Assoc, 105:522‒ 526, 2006.
文献5:Torabinejad M, Rastegar AF, Kettering JD et al.:Bacterial leakage of mineral trioxide aggre- gate as a root‒end filling material, J Endod, 21: 109‒112, 1995.