歯医者さんの麻酔で痛みを抑える方法 Part3
痛みが強い時は麻酔が効きにくい!?
こんにちは。
2022年10月1日にオープンした、道頓堀川沿い、大阪難波・なんば駅から徒歩3分、心斎橋駅から7分にある「道頓堀キムラ歯科クリニック」の院長の木村沢郎(キムラサワオ)です。
過去2回では、歯医者さんの麻酔を行う際の、技術的なアプローチと精神的なアプローチについて話をさせていただきました。
今回は、『痛みが強い時の麻酔』についてお話をしたいと思います。
歯医者さんの麻酔が効きにくい体質はウソ!?
「前の歯医者さんで、麻酔が効きにくい体質って言われました」
とおっしゃる方に何度も出会うことがあります。
お話を伺うと、治療を避けた方がいいタイミングで治療をされていたり、
麻酔が効きにくい状態にも関わらず一般的な麻酔だけで治療をしている場合が非常に多いようです。
麻酔が効きにくい体質ではなく、麻酔を使う際の適切な診断と麻酔方法の適切な選択ができていないために麻酔が効きにくくなっていることが原因の大半です。
その歯の状態、患者様の状態を的確に診断し、最適な麻酔方法の選択ができていれば、
「麻酔が効かない」という最悪の状態は回避することができます。
そのような方に対して実際に治療を行うと、
「歯医者さんの麻酔って本当は痛くないんですね」と
仰られる方が非常に多くお見受けします。
治療する歯科医師側は当然ですが、治療される患者様も麻酔について正しい知識を持つことで、痛みがストレスにならない歯科治療を受けることができます。
「お酒に強いので、麻酔が効きにくいですか?」
と質問される方もいらっしゃいます。
答えは、Noです。
お酒が強い=肝臓でお酒を分解する力が強い=肝臓で麻酔を分解する力が強いと、
勘違いしてしまいやすいですが、
歯医者さんの麻酔は、麻酔の注射をした部分に麻酔効果を出す、「局所麻酔」になります。
歯医者さんの麻酔を効かせている部分はお口の中の一部分になるため、肝臓での麻酔の分解とはほとんど関係がありません。
最終的には麻酔液も血流に乗って肝臓で分解されるので、肝臓は最終処理場としての役目になります。
麻酔が効きにくい時の3つの特徴
1.腫れが強い
2.痛みが強い
3.下の奥歯の治療(特に下の6番目、7番目の奥歯)
特にこの3つのうちのいくつかが重なると、麻酔が効きにくい状況になります。
一つずつ説明していきたいと思います。
腫れがある部分には、いくつかの化学反応が起こっています。
1.腫れが強いと麻酔が効きにくい
歯肉の腫れている状態や、歯の神経がズキンッと強い痛みがある状態では、歯茎や歯の内部の神経に強い炎症が起こっています。
強い炎症があると麻酔が効きにくくなります。
もう少し詳しくお話をしていきますが、少しややこしいお話なので、
続きの「2.痛みが強いと麻酔が効きにくい」まで飛ばされても大丈夫です♫
炎症が起こっている部分では、感染した細菌からの脂肪酸の産生されるため、
また低酸素による周辺の細胞での乳酸の産生が増加するため、
組織のpHが低下し酸性の状態になります。
酸性の状態では、麻酔の効果が低下します。
麻酔液は、痛みに関係する神経に働きかけることで神経の反応を鈍くすることで、刺激に対する反応を鈍くさせ、その結果として痛みを感じないようにさせます。
麻酔液が神経に働くためには、神経の細胞の膜を通過しないといけません。
麻酔液は、イオン型と水素イオン、非イオン型に分かれて水に溶けています。
このうち非イオン型のみが神経の細胞の膜を通過することができるため、非イオン型の濃度が麻酔効果を左右します。
歯医者さんの麻酔液では「リドカイン」という種類を主に使用しますが、これはほぼ中性(pH7.9)で、イオン型と非イオン型の濃度が均等になります。
体内のpHは7.4前後であるため、炎症がない状態では非イオン型の濃度が十分であるため、十分に麻酔効果が発揮されます。
しかし、炎症がある部分では酸性状態になるため、神経の細胞膜を通過できる非イオン型の濃度が少なくなり、麻酔効果が弱くなります。
その結果、本来神経に十分効果がある量の麻酔液を注射しても、神経の働きを抑えるほど効果が出ない場合があります。
炎症があると、麻酔液が漏れていく!?
炎症がある部分では血管が緩んでいるため、麻酔液が血管から漏れやすくなります。
一般的な歯医者さんの麻酔液には、「エピネフリン」という血管をギュッと締める作用がある血管収縮薬が含まれています。
エピネフリンはアドレナリンやボスミンとも呼ばれ、興奮した状態に多く造られるホルモンの一つです。心臓の働きを強くし、手足などの抹消の血管を縮めることで血圧を上昇させる作用があります。
余談ですが、歯医者さんの麻酔の後に、ドキドキしたことがある人は、麻酔液に含まれているアドレナリンが血管に流れ一時的に作用している場合があります。
麻酔液に含まれているエピネフリンが、麻酔をした部分の血管を締めることで、
出血量を抑え、麻酔液が流れ出ることを抑えることで、麻酔効果を長く作用させることができます。
炎症のある部分では血管を広げる物質が産生されるため、エピネフリンの作用が弱くなります。
麻酔液を注射しても出血しやすく、麻酔液が外部に流れ出る量が多くなるため、
麻酔が効きにくくなり、また麻酔から覚めやすくなります。
2.痛みが強いと麻酔が効きにくい
痛みが出ている部分は、通常に比べて痛みに対して敏感になっています。
痛みがある部分では、疼痛閾値の低下が起こります。
「疼痛閾値」とは、刺激を受けた際にそれ以上になると痛みを感じる限界点のことです。
疼痛閾値は個人差は心理状態、体調などによって左右されます。
痛みの刺激が繰り返し伝わると、疼痛閾値が下がり、痛みに対してドンドン敏感になっていきます。
その結果今まで感じなかった刺激でも痛みを感じるようになり、少しの刺激でも痛みを感じるようになります。
痛みはさらに新しい痛みを作り出す!?
痛みを感じると交感神経が興奮し、血管が収縮することで酸素の低下した状態(虚血状態)になり、血管から発痛物質が分泌されます。
それより、さらに痛みが増加します。
長い期間痛みが続いている場合は、脳で痛み刺激がパターン化されてその伝達が強まることもあります。
3.下の奥歯の治療(特に下の6番目、7番目の奥歯)
顎の骨は場所ごとの硬さが違う!?
歯によって、麻酔が効きやすいところと効きにくいところがあります。
その違いは、骨の硬さや厚さが歯の場所で大きく異なっているためです。
特に麻酔が効きにくい場所は、下の奥歯です!
骨の外側は「皮質骨」という硬い緻密な骨に覆われており、内側は「海面骨」という柔らかい骨に覆われています。
歯を支えるという意味では、硬い骨でしっかりと歯を支えていることは素晴らしいのですが、
麻酔をする場合については難点もあります。
歯医者さんでの麻酔でよく用いられる「浸潤麻酔法」では、歯の近くの歯茎に麻酔液を注射し、
その麻酔液を骨の内部に染み込ませることで歯の神経に麻酔効果を発揮させます。
硬い骨(皮質骨)が分厚いほど麻酔液が浸透しにくいため、麻酔が効きにくくなります。
下の奥歯(6番目や7番目の歯)の頬側は特に硬い骨(皮質骨)が分厚いため、頬からの浸潤麻酔の効果が弱くなります。
このような理由で下の奥歯の痛みが強い時や腫れが強い時は、麻酔が非常に効きにくくなります。
このような状態の患者様に対して、いつもと同じような麻酔を行うと、
本当に麻酔が全然効きません!!
それでは、
どうしたら痛みがない治療ができるのか?
次回は、その際の対処方法についていくつかお話をしていきたいと思います。
長文を最後までご覧くださり、ありがとうございました
道頓堀キムラ歯科クリニック
院長 木村沢郎